地球上の水の97.5%は海水で、人類が使用できる地下水や河川、湖沼などの淡水は0.8%とごくわずか。しかも気候変動による砂漠化や汚染など、水資源の前途は多難です。そうした中、「水を大切に」「水を汚さない」をテーマに開発を進めてきたセルフ式ガソリンスタンド向け1Way洗車機「アビエント」(写真)を2007年10月から発売しました。「環境にやさしい洗車機シリーズ」と銘打ち、「環境保全」と「経済性」の両立を図ったのが大きな特長です。水の使用量を2分の1(当社比)に抑えた節水設計、シャンプー、ワックスに植物油由来の原料を使用して油分を半減させるなど、安全で環境にやさしい洗車機に仕上げました。

一方、アビエントに先立ち2月には洗車乾燥時の騒音を大幅に低減させた超静音ドライ「クリスタルドライシステム」を開発・発売。近隣住宅との間で騒音トラブルを抱えるガソリンスタンドに高い評価をいただき、導入が進んでいます。本稿では、これら「水」と「音」に焦点を当て開発した洗車機シリーズをご紹介します。

写真: 「クリスタルドライシステム」を搭載した「アビエント」

写真: 「クリスタルドライシステム」を搭載した「アビエント」

セルフ式ガソリンスタンド向け洗車機「アビエント」

近頃、政府が発表した「地球温暖化対策に関する世論調査」では、温暖化による海面上昇や熱帯雨林の減少など環境問題に関心があるとの回答が92%あり、10年前から調査を開始して初めて90%台に達したと報じられました。いまや国、自治体、企業、個人などすべてのレベルで環境に取り組まなければならない状況下にあり、ISO14001を取得する企業も年々増加しています。

原油価格の高止まりから来るガソリン価格の高騰で、ガソリンスタンドなど販売の第一線は苦戦を強いられていますが、そうした中でもフルサービス式からセルフサービス式へ切り替える設備投資は続いています。「アビエント」は、セルフスタンドで使用するドライブスルー洗車機として商品化しました。しかも前述した環境問題が注目を集める中、絶妙のタイミングで登場することになりました。

ランニング費削減ニーズから生まれた“節水マシーン”

アビエント開発の原点は、洗車機事業部(当時)としてISO14001を取得した1999年に始まります。取得初年度の開発テーマとして、シャンプー・ワックスなど洗車の際に使用する液剤の使用量削減に取り組んだのがきっかけです。

2002年には水使用量削減に方向を変え、まず「20%ダウン」を目標に活動をスタート。当時は水洗いで135ℓもの水を使用していましたが、翌年には120ℓ・前年比11.5%減、2004年に100ℓ・16.7%減、2006年に75ℓ・25%減と、新機種開発のたびに水量削減を図ってきました。2006年モデルでは2002年比で44.4%の水量削減を達成していましたが、その方策は車両形状認識精度の向上による水スプレー時間の短縮が主な内容であり、こうした小手先では限界にきていました。また、他社の水使用量もほぼ同等で、差別化を図るまでには至っていませんでした。

この間、ガソリンスタンド業界の経営環境は年を追って厳しさを増し、洗車機の販売価格の下落が続きます。ランニングコストへの関心も高まり、ガソリンスタンドで使用する水の約90%を占める洗車時の水量削減が大きなテーマになりつつありました。使用水量を削減した機械を提供できれば、販売面で有利になります。

そこで、2007年モデルでは前年比50%削減を目標に、他社との差別化および環境性をうたった新機種の開発に着手。75ℓの50%・37.5ℓは、数値としては中途半端なため、ガソリンスタンドではおなじみの灯油ポリ容器(18ℓ)2個分、36ℓでの洗車を絶対条件としました。当然、従来手法では達成できないことが分かっていたため、新たに編み出した手法が「ファイナルスイーパーシステム」と「ウォーターセーバーシステム」です。

ポイントはムダ水の排除と高圧スプレーの活用

「節水化」の取り組みは、すすぎ用の水とワックスが供給される配管の小径化からスタートしました。これにより、噴射・停止時のレスポンスを向上させ、無駄な残水量を削減しました。

これに続いて取り組んだのは、ノズルの数、口径の最適化を図ることでした。従来機のノズルを基準とし、ノズル数の増・減、口径の大・小と試行錯誤を繰り返しながら水の出方をチェック。さらに水噴射距離を向上させ、水圧・水量感を低下させずに洗浄できるようにしました。

また、従来オプションだった洗浄ユニットの天井前部および側面の高圧ノズルを標準装備としたうえ、新たに天井後部にも取り付けました。これにより、ボディ全体に満遍なく水やワックスがかかるように工夫。天井部はチルト(傾倒)式とし、後部の高圧ノズルがボディのルーフ部に差しかかるとチルトスピードを一段と速くするなど、水圧・水量と洗浄性のバランスを最適化しました。これをファイナルスイーパーシステムと命名し、水圧をかけて払い落とすことで、少ない水量でブラッシング後の汚水や余分な撥水部分を洗い流し、洗浄性とワックス効果を高めています。前後2カ所の高圧ノズルが同時に噴射し動くさまは迫力十分で、ドライバーに対するショー効果、水量感を印象付けます。

また、洗車コースや洗車速度、使用するノズルの数に合わせて水中ポンプの回転数を制御することで、洗車状況に合わせた最適供給水量で洗車を行います。これがウォーターセーバーシステムです。つまり、車高・洗車スピード・洗車コースに合わせてチルトスピードを制御することで、塗面へ最適水量を噴射させているのです。

普通に考えると、「水が半分になると、キズがつくのでは?」という疑問がわきますが、ボディ以外の場所に噴射する無駄な水を減らし、逆にボディに対してピンポイントで噴射するようにコントロールします。ボディ自体に噴射される水量、すなわちブラシと車が接触する部分の水量は変わっていないため、水量半減に伴うトラブル要因にはなりません。

実際に得られた使用水量に関するデータを洗車時間別に比較してみると、洗浄と乾燥を同時に行う最短時間の0.5往復シャンプー洗車で従来機が75ℓなのに対し、「アビエント」では36ℓ、洗浄・すすぎ・乾燥を順次行っていく1.5往復撥水洗車では従来機115ℓが同じく48ℓと、それぞれ使用する水の量は2分の1以下となりました。カローラクラスの乗用車1台を洗車するのに、洗車メニューにもよりますが39〜67ℓの水が節約できるという結果が得られています。

1Way機1台あたりの月間平均洗車台数は1,500台。その場合の洗車コース別の比率は、平均すると0.5往復シャンプー洗車50%、0.5往復ワックス洗車20%、1.5往復高圧撥水コート20%、1.5往復高圧Gプロテクト(鏡面ポリマー)10%となります。各コースで使用する水量は、従来機は順に75ℓ、80ℓ、110ℓ、130ℓ、アビエントでは36ℓ、36ℓ、55ℓ、75ℓですから、従来機が月間で13万2,750ℓとなるのに対し、アビエントでは6万5,550ℓとほぼ半減します(図1)。これは月間でタンクローリー約3台分、約6万8,000ℓ、年間なら25mプール換算で1.5杯分、約80万ℓに相当します。東京都の上下水道料金で試算すると、1年間に約40万円弱、5年で約200万円弱の節約が可能になります。さらに、使用水量が多い撥水コートや鏡面ポリマーの比率が高くなればなるほど、より節約金額は大きくなります。

兵庫県西播地区のあるセルフスタンドで実測した事例では、1台当たりの平均洗車水量が従来機で122ℓだったのに対し、アビエントでは52ℓという結果が出ています。実に57%ダウンという大きな数字です。

図1: 水道料金の節減シミュレーション

図1: 水道料金の節減シミュレーション

植物由来原料の液剤で油分半減、環境負荷を低減

洗車に必須のシャンプー・ワックスなどの液剤も、従来から広く使われている石油系原料に対し植物(ヤシの実)由来の液剤を新開発しました。シャンプーにはココヤシから採取したヤシ油由来成分、ワックスにはアブラヤシから採取したパーム油由来成分を使用、それぞれ「パームシャンプー」、「パームワックス」の名称で商品化しました。

これら植物由来原料により、悪臭や有機汚染の原因となるノルマルヘキサン抽出物質(液剤に含まれる油分)を従来の半分に抑えることができ、環境負荷の低減に貢献します。さらに石油原料製品と比較して、生分解性(自然に戻る)に優れる特長があり、安全性の面でも人に優しい液剤といえます。

石油は有限資源であり、使用した分だけ埋蔵量は減少していきますが、ヤシは毎年実をつける“再生可能”な原料で、都度、油を採取することができます。また、これらの植物は光合成によって地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素の増加を抑えます。それでいて、洗浄効果や撥水効果は従来の石油原料と遜色がないことが証明されています。

また外板塗装には、人体に悪影響を及ぼす鉛およびクロムなどの有害物質を含まない環境対応塗料を使用しています。今後はほかの部分にも順次拡げていく計画です。

超静音ドライ「クリスタルドライシステム」

「クリスタルドライシステム」は、環境問題に取り組む中で、ガソリンスタンド業界が抱える構造的な問題解決のために新たにターゲットに掲げたものでした。新しい開発テーマを選定する中で、約30カ所のガソリンスタンドからヒアリングしたところ、8割のマネージャーが「近隣との騒音問題」を挙げました。始業・終業時間、そして1分でも指定時刻を過ぎると飛び込んでくるクレームと、悩みを語られました。

騒音問題は、個人だけでなく自治会や行政機関まで巻き込み、大きな問題となる要素をはらんでいます。中でも洗車時の乾燥用ブロワの起動音は深刻で、早朝・夜間時も営業し長時間稼働が日常化しているセルフスタンドでは、喫緊に解決すべき問題です。それらがクリアできなければ、営業を開始できない、という事例が数多くありました。地域密着を求められる業界にとっては、死活問題です。

低騒音と高い乾燥能力の両立

従来、夜間の騒音対策としてはブロワインバータによる低回転運転が一般的でした。しかしこの方法では騒音を下げるようにインバータを調整するため乾燥能力もダウンし、結果的にはドライバーに対して満足のいく洗車能力を提供できていないのが実情でした。このため、低騒音と高い乾燥能力の両立は必須の要件でした。

そのためにブロワ本体、排気管、ノズルと音を発生させる3つの部位に対し、外部に漏れる音を徹底して小さくすることが必要でした。音の極小化が最優先のため、洗車機に内蔵する方法はとりませんでした。なぜなら、狭い洗車機内部に取り付けることは、その分ブロワの吸音ボックスのサイズに制約が生じ、効果的な数値が得られないと判断したからです。こうして洗車機上部に搭載する現状の形となりました。

取付位置をルーフ部としたことは、もうひとつ大きなメリットがあります。既に営業中の洗車機でも取り付けることができるからです。内臓タイプでは既設機への対応はコストが合わず、まず不可能です。

この間、(株)ダイフク技術研究所(当時)と連携し、産学協同の成果も併せて実用化することができました。

“静かな乗用車”並みの音を実現した3つの技術

元来、騒音とは一般的には不快と感じる音をいい、70dB以上が騒音と呼ばれています。クリスタルドライシステムでは、洗車機本体の正面から10m離れた地点で、約9dBダウン(当社従来機比)させ、60dB台前半の測定値を実現しました。数値上はわずか10%強ですが、体感値は数字をはるかに超えるものがあり、一様に「驚いた」「洗車機のそばで普通の会話ができる」という感想をいただいています。防火塀越しの場合は、さらに7〜8%の騒音削減効果が得られています。

洗車機に対しては従来、“騒がしい事務所”というのが一般の概念ですが、そこから“静かな乗用車”並みに評価を一変させたのが、以下の3つの技術です(図2)。

1)トリプルサイレンサシステム

ブロワ(乾燥機)騒音を3種類のサイレンサ、「本体サイレンサ」「排気サイレンサ」「ノズルサイレンサ」を併用することにより、ブロワの風が通るすべての領域で騒音を削減、トータルで大幅ダウンを実現しました。ブロワを洗車機の上部に外付けにすることでノズルと結ぶ排気管を長くし、防音材を張る部分を増加。ブロワから発生する騒音をより吸収できるようにしました。

2)整流化システム

騒音の原因の1つである、ブロワから出てくる風の乱流を発生させないように、風の渦が起こらない整流化システムを採用しました。従来は排気管が異なる方向に枝分かれしており、風の流れが2方向に分岐するところで乱流が生じていました。こうして、風の効率を低下させる原因を取り除いてノズルに吹き出すことにより、騒音値をダウンさせました。

3)ブロワ起動音の低減

洗車機騒音の中で最も耳障りなブロワの起動音を解消するため、インバータを採用して超低速起動を実現し、気付かないうちに最高周波数に到達するようにしました。

2007年はダイフクが洗車機の開発・生産をスタートして以来、30周年という節目の年に当ります。クリスタルドライシステムは、その記念機種としての意味合いもありました。長年にわたって市場に投入してきた洗車機にオプションとして搭載することで、新しい可能性を切り開いた画期的なシステムだったともいえます。開発した当初は搭載可能な機種も0.5往復タイプのドライブスルー機だけでしたが、今では門型機、ドライブスルー機、ローラコンベヤ式連続洗車機はもちろん、一部既設機種にも対応できるなど大きく幅を拡げています。

< DAIFUKU NEWS No.186 (2008年1月)より >