「モノを動かし、心を動かす。」ダイフクグループが提供した価値Special Interview 心豊かに生きられる社会の創造へ

マテリアルハンドリングシステムで世界をリードする株式会社ダイフクが新たな経営理念「モノを動かし、心を動かす。」を発表した。多くの企業がコロナ禍に翻弄され、事業活動において先が見通せないこの時期に、あえて経営の根幹ともいえる理念を刷新する。なぜ新しい経営理念の策定に挑んだのか、そこに込めた思いを下代博代表取締役社長に聞いた。

(聞き手:日経BPコンサルティング 代表取締役社長 寺山正一)

  • 当記事は広報誌「DAIFUKU NEWS No.233」(2022年1月発行)掲載の「年頭ご挨拶~経営理念改定にあたって~」を再構成したものです。
代表取締役社長 下代 博

コロナ禍で厳しい時代
経営理念の刷新の必要性を実感

2021年4月に中期経営計画「Value Transformation 2023」(以下、中計)をスタートされました。今回の経営理念の改定はいつごろから考えていましたか。

私自身は2020年後半から考えていました。その時期は中計の策定を進めていたころで、しかもコロナ禍で計画立案の難しさを感じていましたが、こんな時代だからこそ、我々は先々を見据える必要があると感じました。

中計策定に際しては、4つの環境変化を考えました。1つ目は市場環境の変化です。eコマースがグローバルで拡大し、同時に自動化ニーズが高まりました。2つ目は事業環境の変化。デジタルトランスフォーメーションの進展や、中国を中心とした新興企業の台頭により競争が激化しているため、我々も変革していかなければなりません。3つ目は経営環境の変化です。M&Aによりダイフクグループに加わる海外企業が増加したことに伴い、ガバナンスの強化が一層重要となりました。また、社内のアナログ業務の見直しとデジタル化の加速も進めています。4つ目は社会環境の変化です。これは、ステークホルダーエンゲージメントの向上に加え、事業活動を通じた社会貢献の重要性の高まりを意味します。

この4つの環境変化の中で、ダイフクグループが持続的な成長を続けるためには、このような時代の変化や社会的な要請への迅速な対応、ニューノーマル時代の働き方改革なども考えなければなりません。前回の改定から8年が過ぎ、いまこそ経営理念を刷新すべきだと判断しました。

新しい経営理念「モノを動かし、心を動かす。」に込めた思いをお聞かせください。

経営理念の「モノを動かし、心を動かす。」を表現したブランドムービーを公開

経営理念は、ダイフクグループの存在意義や提供価値を端的に表現しました。「モノを動かす技術」(マテリアルハンドリング)は当社の事業の根幹であり、競争力の源泉です。そして「心を動かす」には、さまざまなモノが動くことで、より人々の暮らしが豊かになり、便利になる、だから事業を通じて社会貢献ができる、という意味を込めました。この理念は、物流に携わる人にとって共通する概念だと思います。

当社が大切にしているのは、「人々を重労働や単純反復作業から解放する」ということ。重い物の運搬や同じ作業の繰り返しはロボットや機械でもできます。そのようなつらく大変な作業は機械に置き換えて、人はより創造的な仕事に取り組めるようにすべきでしょう。特にいまは人手不足ですから、限られた人数で物流センターや工場を運営することが必要ですし、これは働く人の人権を尊重することにもつながっていくと思います。

今回は、新たな経営理念の発表と同時に、ブランドメッセージも「Automation that Inspires」に変更しました。日本語をそのまま直訳しても英語圏の人には伝わらないので、「心を動かす」の意味を改めて捉え直し、モノを動かすことや自動化することによって何が起こるのかという視点から「Inspire」という言葉を選びました。

社会のインフラと認められたからこそ
これからも挑戦を続けるべき

私は記者だったころに産業界の情報収集の一環として、御社の広報誌も愛読していましたが、2004~05年当時に比べると企業規模が格段に大きくなっていて、実は驚いています。

当時と比べるといまは多くの方に社名を覚えていただき、マテリアルハンドリングそのものが社会のインフラとして認知度も高まってきたように思います。そうなると今度は売上や利益に対する会社としての責任が大きくなり、それを維持しようという発想が出てきます。もちろんそれは大切なことですが、世の中に新しい製品をどんどん出そうと挑戦していた時代は、いまとは別の輝きを放っていたと思います。

当社は日本初、世界初の製品を数多く送り出してきました。例えば、1966年に日本初の自動倉庫を開発し、1969年にはコンピュータオンライン制御による自動倉庫へと発展させました。1993年には世界初の非接触給電によるモノレール搬送システムを開発、摩耗粉の出ないクリーンな環境を実現するシステムとして自動車業界で数多く採用されました。後にこの技術は、半導体・液晶業界向けのクリーンルーム用搬送システムにも応用しました。開発を手掛けた技術者と営業部門のメンバーが共に生き生きと取り組んでいたことが思い出されます。ほかにもさまざまなシステムを開発し、時代とともにその機能を進化させてきました。昨今はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を駆使して、より高度な製品・サービスの開発も進めています。

当時と比べると、会社の規模は大きくなりましたが、これで十分だと思って挑戦をやめてしまえば、すぐに海外の競合に押されてしまうでしょう。当社はこれからも挑戦を続け、日本初や世界初の製品を出していくべきだと思っています。

御社のDNAや新しいものを生み出そうというマインドは今も受け継がれていますね。

当社は自動車業界向けの事業で成長しましたので、お客さまの工場の稼働を守ることの大切さは身に染みています。自動車メーカーでは長期連休中に生産ラインを止めて設備を更新しますが、連休明けに稼働できる状態にできなければ、何千人もの社員の仕事を止めてしまいます。そのため、何としても納期を守るという意識はとても強く持っていました。自動車業界に限らず、このように稼働を守ってきたことが、お客さまからの高い評価につながっているので、そういった良きDNAとチャレンジするマインドを経営理念に込めています。

お客さまのその先のお客さまへ
ダイフクができること

下代 博

下代 博 Hiroshi Geshiro

1983年、大福機工株式会社(現・ダイフク)に入社。入社以来、営業部門を中心に従事し、2012年執行役員FA&DA事業部営業本部長、2014年常務執行役員FA&DA事業部門長、2015年取締役 常務執行役員などを経て、2018年4月に代表取締役社長 社長執行役員に就任

経営理念を実践するための心構えや姿勢として3点を挙げています。1点目の「人と環境への負荷を最小化し、人権の尊重と責任あるものづくりを実践することで、持続可能な社会の実現に貢献します。」についてお話しいただけますか。

マテリアルハンドリングの使命である、人を重労働や単純労働から解放することに加え、サステナビリティ経営の要素として、脱炭素社会への取り組みや生物多様性への配慮などを通じて環境への負荷を最小化していくことを取り入れました。当社は以前から環境対策に取り組んでおり、滋賀事業所では廃水処理施設による常時監視体制を整備し、法規制の順守を徹底することで水質維持を図っています。また、2013年に約4.4メガワットのメガソーラー発電設備を設置し、工場で必要な電力量の約3分の1を発電しています。中国やタイの工場でも同様に太陽光発電設備の設置を予定しています。今後も環境や人権に配慮した「責任あるものづくり」を、お客さま、お取引先といったサプライチェーンや地域社会と連携して実践していきます。

経営理念の3つのポイントの2点目に、「世界のお客さまと誠実に向き合い、革新的技術と最適最良のソリューションでスマート・ロジスティクスを実現します。」とあります。これはすでに実現されているのではないでしょうか。

ありがとうございます。当社の強みは、あらゆる困難から逃げずに最後までやり遂げる力で、以前からお客さまの要求に真摯に応え、競争優位性をもたらしたいという想いのもと中長期的な信頼関係を築いてきました。しかし、お客さまが当社に求める要求の水準は上がる一方なので、現状に満足するわけにはいきません。今後もその期待に応えながら信頼関係を構築することの重要性をダイフクグループ全体で理解、共有し、お客さまへのスマート・ロジスティクスの提供を推進していきたいと考えています。

3点目のポイント、「多様性を尊重する自由闊達な企業風土のもと、一人ひとりが変革に挑戦します。同時に、経営基盤を強化し透明性の高いグローバル経営を行います。」についてお話しいただけますか。

当社には、これまで培ってきた自由闊達で風通しの良い企業風土があります。社員には生き生きと仕事をしてほしいし、失敗を怖れずに新しいことにチャレンジしてほしい。ここは一番大事だと思っています。加えて、お客さま、お取引先、パートナー企業、地域社会などステークホルダーとのつながりを通じて、より良い社会の実現に貢献し続ける当社の姿勢を示し、中計で掲げる「提供価値の変革」を目指す視点を取り入れました。

新たな価値創造にチャレンジすることで
物流の未来をけん引していきたい

最後に今後の展望をお聞かせください。物流の世界は今後まだまだ発展していきますか。

いま関心があるのは、家庭や消費者に届くまでの部分について、次世代の物流がどうなるのかということです。ドローンや公道における無人自動搬送車などの実証実験が行われていますが、ドローンの飛行にはさまざまなリスクが想定されますから、法整備などの課題も含めて実用化され広く普及するまでにはまだ時間を要するでしょう。

究極はすべての物品がお手元まで自動で届くこと。子どものころに読んだSF漫画のような世界です。欲しいものをつぶやけば、ドローンが物流拠点から自宅まで運んでくれるという世界は、技術的には夢ではありません。

今やマテリアルハンドリングシステムは重要な社会インフラとなりました。当社は、前例にとらわれない柔軟で創造性豊かな発想力と、既存の枠組みを変革していく実行力をもって、「次世代の物流はこうなる」「こういうことができる」と先を見据えて新たな価値創造にチャレンジしていく企業を目指していきます。今後も、ダイフクグループの持続的な成長と持続可能な社会の実現に貢献しながら、物流の未来をけん引していきたいと考えています。

ありがとうございました。

左:寺山 正一、右:下代 博
寺山 正一:1989年日経BPに入社。ニューヨーク特派員などを経て、2008年から3年間『日経ビジネス』編集長を務める

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