「モノを動かし、心を動かす。」ダイフクグループが提供した価値Special Talk「産業廃棄物に学ぶ、持続可能な社会づくり」

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株式会社ダイフク 代表取締役社長 社長執行役員 下代 博 石坂産業株式会社 代表取締役 石坂 典子様
(画像左)株式会社ダイフク 代表取締役社長 社長執行役員:下代 博
(画像右)石坂産業株式会社 代表取締役:石坂 典子様

埼玉県三芳町と所沢市にまたがる三富今昔村(さんとめ こんじゃくむら)。その昔懐かしい里山風景を蘇らせたのが産業廃棄物処理業を営む石坂産業株式会社。従来の産廃のイメージを一新した工場には見学希望者が後を絶たず、自然豊かな環境教育フィールド「三富今昔村」は地域住民の憩いの場として愛されています。創業者の志を受け継ぐ2代目社長の石坂典子様と、当社社長の下代博が社会とのかかわり方について意見を交わしました。

下代 雑誌『財界』が主催する「第61回 経営者賞」の授賞式をきっかけに、石坂社長のご著書を拝読いたしました。メディアが流したニュースに起因する一連の騒動の中、地道な清掃活動や里山再生、社内改革に取り組んで地域住民との信頼関係を築き、見事復活を遂げたストーリーはまさに奇跡でした。
また、出演されたテレビ番組なども拝見し、ぜひ一度御社にお伺いしたいと思っていました。ようやく念願が叶って工場と里山を見学でき、改めて素晴らしい取り組みだと実感しました。

石坂(敬称略) ありがとうございます。当社は目に見える製品を作っているわけではないので、工場見学を受け入れたり、マスコミを通して情報を発信することを大切にしています。私たちが工場周辺の清掃から始めて、里山再生に取り組んでいるのも、地域の皆さまに伝えたい思いがあるからでした。

下代 伝えることは大事ですね。当社ではお客さま向けに工場見学を受け入れているほか、滋賀事業所内にマテリアルハンドリング・ロジスティクスの体験型総合展示場「日に新た館」を開設し、社外の方との接点をつくっています。
とはいえ、当社も社会からは見えにくい黒子の会社です。以前は黒子のままでも成長できればそれでいいと思っていましたが、今は違います。当社がある大学に寄附講座を開講した際に、学生に当社を知っているかと尋ねたところ、ほとんど知られていなくて愕然としたと同時に、もっと知っていただきたいと思いました。学生たちはいずれ社会に出ていき、仕事をする中でマテリアルハンドリングとかかわることもあるでしょう。その時に思い出していただけたら嬉しいですね。

歴史のある里山を再生させた三富今昔村。写真中央は環境に配慮した全天候型プラント

工場見学の受け入れに社員が大反対
今や年間4万人の来場者

石坂 伝える活動を始めたのは1999年のダイオキシン騒動がきっかけでした。激しいバッシングを受け、地域の方々に「出ていけ!」とまで言われる中で、ふと気づいたのです。創業者である父は強い思いを持って起業しているのに、それが全然伝わっていない、もったいないなと。創業者が自ら伝えられれば良かったのでしょうが、職人のような人ですから積極的な発信は難しい。それならば私が代わって創業の思いを伝えていこうと、後を継いだのです。
おかげさまでいろいろなメディアに出演させていただいていますが、今後は社員がもっと表に出るようにしたいと考えています。既に一部メディアでは社員が出演し、会社のことを伝えてくれています。発信する仕事に携わると、なぜか会社のことが好きになるので、社員には積極的に出てほしいと思っています。

下代 同感ですね。社員が自社について語るのを聞いていると、実に良いことを言っています。発信するために会社を見つめ直す好機になっているのでしょう。結果、自分の会社や仕事に誇りを持つことにつながるのだと思っています。
当社製品は工場や物流センターなどで使われていますが、一般消費財と違って、納入したシステムがどのように活用されているかを普段目にすることはありません。そこで製造現場に従事している社員には、お客さまの現場を訪問する機会を設けています。
製品がお客さまのもとでどのように役立っているかをじかに見て、お客さまから直接話を伺うことで、事業を通じて社会に貢献していることを理解してもらい、モチベーション向上につなげています。そうすることで社員自身がお子さんに「こういう仕事をしているんだよ」「目立たないけれど、こんなふうに社会に貢献しているんだよ」と伝えられるようになります。

石坂 10年以上前に工場見学用通路を設けようと考えたのも社外の方々に知っていただきたいというだけでなく、社員のモチベーションにつながることを期待したからです。でも、社員には「そんなことをやっても見学者が来るわけはない」「無駄な投資だ」と大反対されました。
それが現在は年間4万人もの来場者が訪れます。こんな日が来るとは誰も思わなかったでしょうね。

地域にファンが増えたことで
取引先から指名される存在に

下代 当社の総合展示場には小学生が社会科見学の一環として来場することも、工業高校の生徒や海外からの訪問もあります。実物を見ると見ないでは理解度がまったく違うので、展示場への来訪が当社事業を知る機会になればと思っています。
御社では見学者を受け入れることで、社内にどういった変化がありましたか。

石坂 社員にとっては働いている姿をいろいろな人に見られるわけですから、自分たちの仕事の在り方を考え、答えを探すきっかけになっていると思います。
見学受け入れは、事業にも良い影響がありました。工場に併設する三富今昔村は環境教育のフィールドと位置づけ、さまざまなプログラムを提供しています。この施設のファンになってくださる方が増えたことで、取引先から指名されるケースが増えました。取引先にとっては実態が分からない会社よりも、地域に多くのファンがいる会社の方が安心ですよね。
以前は当社の営業マンが出向いても「知らない会社だから」と見向きもされないこともありましたが、今ではさまざまなところで名前を挙げていただけるようになりました。見学受け入れは外部コンサルタントを入れるようなものだと思っています。
いろいろな価値観の方からいただくご意見が経営改善のヒントになり、レベルアップにつながっていると感じています。会社の内側を見せることで多面的な価値が得られるのです。

下代 今日、御社の工場を拝見し、やっぱりすごいと実感しました。産業廃棄物の徹底した分別と再資源化のために必要な機械と最適なプロセスを独自に構築されています。世の中にないモノを作るだけでなく、このくらいでよいなどと妥協もすることなく、徹底してこだわって作り込んでいることに驚きました。

石坂 とことんこだわらないと、仕事も楽しくないですね。
当社は廃棄物を処理し、それを舗装材やマルチング材、燃料チップなどに加工し、原料として供給していますが、社員は最終製品を見ることはありません。でも、社員にとっては原料を供給しているという感覚を持つことが大切。自分たちで考えて生み出すところに仕事の楽しさがあるのです。
今後、AIの登場で人間の仕事がすべて奪われることはありませんが、仕事の質は変わっていきます。人間がなすべき仕事は思考や創造といった領域で、そこに人の能力をフルに使うべきだと思うのです。
当社のコーポレートスローガンは「自然と美しく生きる」。これがどういう意味なのか、私の中では答えがあるのですが、社員にはその意味を考えるところから始めてほしいと願っています。あえて、多様な解釈ができそうな言葉を選んでいますから、それぞれに考えてほしいんです。

世界中で問題になっているごみ処理問題
先進テクノロジーで社会課題解決に挑む

下代 廃棄物処理にAIを導入する研究をしていらっしゃるそうですね。

石坂 製造業では規格化されたものを扱いますから、生産工程の一部を機械に置き換えることが容易ですが、当社が扱う廃棄物は素材も形状も重量も何もかもが異なります。平準化できないモノをどうやって扱えばいいのか、要求される技術水準が高いのです。もし産業廃棄物の仕分け作業を機械化できたら我々の仕事は劇的に変わるでしょうね。
産廃のような厳しい業界にこそ、先進技術が必要です。しかも、廃棄物処理は日本だけではなく、世界中で問題になっています。ごみを漁って換金する子どももいれば、処理しきれないごみが溢れる街もあり、これを誰かが解決しなければなりません。
毎日大量に排出されるごみの片付けに必要なAIの研究開発には莫大な費用がかかります。しかし、世界の課題ですから、ビジネスチャンスにもなり得るはずです。私たちだけでなく、業界外からもぜひ知恵を寄せてほしい。過酷な業界だからこそ、先進テクノロジーが必要です。
これは非常に難しいテーマですが、当社でも一部研究開発を進めています。私たちの研究がベストだとは思っていませんが、変化を呼び込むきっかけになり得ると思っています。

下代 物流業界でもロボットでトラックに製品を積み込むなどの作業は可能です。ただし、動作がゆっくりなので、スピードだけでいえば人間がやる方が速い。これが現状です。仕分け作業にしても物体認識やマニピュレーター(ロボットの腕や手)などまだまだ技術開発の余地はあります。
御社の場合は産業廃棄物処理用ですから、さらにハードルは高いでしょう。

石坂 そうですね。廃棄物は多種多様で量が多い上に、整然と平置きできるように搬入されるのではなく、いろいろなモノの塊として持ち込まれます。それらをばらばらに解体して必要なモノを抽出・分離するとなると、膨大な情報が処理できるAIが必要になります。
単純に現場の作業負荷を軽減しようと思ったら、IoTを活用すれば遠隔操作で重機を動かすことはできますが、遠隔操作をするための人が必要です。作業を機械化するために10億円単位の投資は難しい。だからAIなんです。人手作業を一人分減らせるだけの技術でなければ、投資する意味がありません。

下代 特に複雑で困難な産業廃棄物処理でAIを実用化できれば、ほかの分野にも応用できそうです。
工場見学の際に廃棄物として回収された水道の蛇口を見せていただきましたが、アルミや銅など、さまざまな素材が組み合わさっていました。ああいったものもAIで分離できるようになるでしょうか。

石坂 いずれは実現できるでしょうが、その問いかけには二つの考え方があると思っています。一つは作るところから変えること。枯渇性の資源を使い続けるのは限界が来ますから、リサイクルしやすいように初めから設計すればいい。これができると一番簡単です。
もう一つは完璧なAIを作ること。先ほどお話ししたように時間も費用もかかります。この二つの選択肢のうち、どちらが良いと思われますか。社会には人間にとって便利でも、環境に悪影響を及ぼすものは多い。だからこそ、サーキュラーエコノミー(廃棄物や遊休資産なども含めて、資源を無駄なく活用する循環型経済のこと)やSDGsなどの議論には産廃業者を加えるべきです。
廃棄物には持続可能な社会をつくるためのヒントがたくさん詰まっているんですよ。

下代 未来を見据えて努力を続けられている姿に大変感銘を受けました。当社も人手不足や労働負荷の低減といった社会課題解決のため、「製品・サービス品質の維持向上」や「事業を通じた環境貢献」などに取り組み、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

石坂 典子
(いしざか のりこ)

1992年、石坂産業株式会社に入社。2002年に取締役社長に就任し、ISO7種統合マネジメントシステムの導入など会社の改革を断行。里山再生への取り組みが評価され、2012年に日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)で最高ランク「AAA」を取得。日刊工業新聞社優秀経営者顕彰「第35回記念特別賞」「優秀経営者賞」、財界「経営者賞」など受賞多数。二児の母。

  • 当記事は広報誌「DAIFUKU NEWS No.225」(2019年10月発行)掲載の「スペシャルトーク」を再構成したものです。