大規模再開発とともにデジタル化・自動化を推進。ダイフク滋賀事業所で進むモノづくり改革とは

ダイフクではデジタル技術を生かしたモノづくり改革に取り組む一方で、生産能力の増強や工場物流の最適化に向けて滋賀事業所の再開発計画を進めています。2030年の連結売上高1兆円、営業利益率12.5%のありたい姿とその先を見据えて、モノづくりをどう進化させるのか、CPO(Chief Production Officer)であり、滋賀事業所長も務める専務執行役員の三品康久に話を聞きました。
2023年度に滋賀事業所全体の生産性向上を目的としたプロダクション改革本部を設置し、モノづくり改革の陣頭指揮を執られています。具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

原材料価格や物流費の上昇など、モノづくりを取り巻く環境が大きく変化する中、2030年の長期ビジョン「Driving Innovative Impact 2030」で掲げる、ありたい姿の実現に必要不可欠な生産性向上を目指して、モノづくり改革と業務プロセス改革に取り組んでいます。具体的な取り組みの1つが、自動倉庫や無人搬送車(AGV)といった自社の保管・搬送システムとも連携させた、最新の工作機械による部品加工の自動化です。工作機械に読み込ませる加工プログラムを3Dデータから自動生成できるようにするなど、新しいデジタル技術も取り入れ、さらなる生産性向上を図っています。
品質・価格・納期、モノづくりの基本を追求
新しい技術を取り入れる中で、どのようなことを意識されていますか。
これまで取り組んできたモノづくりにこだわらず、技術進歩に合わせて思考を転換することです。当社はメーカーなので、設計からモノづくりを改革できます。例えば、設計を見直して部品の点数を減らす、溶接していた部品を組み立て式にする、塗装を最小限にして工程を簡素化するといった内容です。実例を挙げると、あるコンベヤ用シャフトは40個の部品を組み立てて作っていましたが、デジタル化・自動化に合わせて材料から作り上げる一体型に変更しました。これにより部品の調達や在庫管理の負荷が軽減し、作業工程も簡略化でき、生産性が向上しています。もちろん安全性や機能性の検証も行い、十分な品質を備えています。
お客さまが求める機能を満たした上で、価格や納期に良い影響が出るのであれば、モノづくりを積極的に変えていくべきだと考えています。改革の本質は「より良いモノを安く早く」というモノづくりの基本原則にあり、その点は従来のダイフクのモノづくりと何ら変わりありません。

生産性向上で目指すコスト3割減
改革を始めるきっかけはコロナ禍だったそうですね。
元となるアイデアは以前から持っていましたが、コロナ禍の影響は大きくありました。サプライチェーンが寸断され、部品が調達できず、それまで5~6年かけて取り組んできた品質向上やコスト削減の手法を見直す必要性が生じました。外部環境の変化は避けようがないので、当社が受ける影響を最小限にするには自分たちで作る仕組みを持つべきと考え、今回の取り組みにつながっています。
現場の反応はいかがでしたか。
最初は事業部の担当者から反対もありました。設計からモノづくりを変えるという意図が伝わらず、長年使い続けている工作機械の入れ替えには抵抗があったのだと思います。そこで担当者と一緒に最新技術の展示施設を回ったところ、担当者の理解が深まり、「こういう機能があるといい」といった意見が出るようにもなりました。また、導入後は、モノづくりに対する現場の考え方が変わり、特に若手社員を中心に多種多様なアイデアや設計への提案がこれまで以上に出てくるようになりましたし、その様子にベテラン社員も良い刺激を受けています。コミュニケーションが活発化する中で、1つ、2つと実績が積み上がり、また新たな提案につながるという好循環が生まれています。
加工した部品を自動倉庫で一時保管し、次工程の方面別にAGVで搬送する
改革によるインパクトはどの程度を見込んでいますか。
コストをトータルで従来比3割削減することを目指しています。改善すべき点はまだありますが、新しい設備に慣れ、ポテンシャルをさらに引き出せるようになれば、より大きな効果を発揮するでしょう。この後のステップは滋賀事業所の再開発計画と併せて考えますが、少子高齢化が進む中で将来的な人手不足は確実なので、デジタル化・自動化を加速させる必要があります。サプライヤーさまにお願いする部分と自社が担う部分の相乗効果で、さらなる生産性向上を実現したいと考えます。
未来に向けて進化する滋賀事業所
滋賀事業所の再開発が進んでいます。計画の背景を教えてください。
おかげさまでこの5年ほどの間に生産量が倍以上に増加したため、仕掛品や製品の保管場所が不足し、滋賀事業所の近隣で複数の倉庫をお借りしています。費用が発生するだけでなく、組み立て作業のために仕掛品を事業所へ移動させ、再び保管場所に戻すといった非効率な作業も生じています。長期ビジョンの中で目指している2030年の連結売上高1兆円には生産体制強化も必要になりますから、滋賀事業所の敷地内に、まずは半導体生産ライン向けシステムのG棟と一般製造業・流通業向けシステムのM棟という2つの工場棟を建設することにしました。合わせて工場棟間の機能を移転し、生産・物流の効率化を図ります。

今回の再開発計画は物流の2024年問題への対応も兼ねています。当社事業の特性上、年末年始やゴールデンウイークといったお客さまが長期休みに入る前のタイミングが出荷の最盛期となり、トラックへの積み込み作業も集中します。少しでもドライバーの負担を軽減するために、スムーズに荷物を積み込める作業場所を確保するとともに、積み込み時間を短縮する工夫も併せて推進しています。
海外ではどのような方針・計画でモノづくりを進めていきますか。
当社グループのモノづくりはコスト競争力や納入スピードを高めるため、お納めする国や地域の近隣に生産拠点を設ける地産地消を基本としており、2025年は一般製造業・流通業向けシステムの工場を自動化需要の拡大が期待できるインドに新設しました。米国でも増設する予定です。海外でも日本と同じ品質を確保することが大前提ですが、モノづくりの方法は日本と同じである必要はないと考えており、積極的にそれぞれの工場を行き来し、互いの良いところを学び合いながら、その国や地域に合った生産体制の強化を目指しています。
2025年4月に竣工したインドの新工場。自動化に重点を置いた生産体制を構築している
最後に生産部門を統括するCPOとして、今後の展望をお聞かせください。
生産部門や滋賀事業所を率いる立場として、人材の育成も重要な職務だと考えています。ただ引き継ぐだけでなく、さらに先を行く人材を育てなければなりません。ダイフクのモノづくりをこれまで以上に発展させ、社会課題の解決に貢献する人材の育成を目指します。
当社のモノづくり改革は始まったばかりです。ここまで取り組んできたDXが真価を発揮するのはこれからで、現場にはさらなる効率化の余地があります。私はCIO (Chief Information Officer)を兼務しており、デジタル化やDXに欠かせないセキュリティー対策についても同時に推進しています。長期ビジョンと中期経営計画の目標達成に向けて、生産部門が貢献できることが多々ありますから、現場の社員とともに一層の改革に取り組んでまいります。

三品 康久
株式会社ダイフク 専務執行役員
CPO (Chief Production Officer) CIO (Chief Information Officer) 滋賀事業所長